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負担の少ないがん検査を届ける仕組みから構築したい

市川 裕樹 Ph.D. Yuki Ichikawa, Ph.D.

CTO

PROFILE
東京大学大学院 薬学系研究科にて博士号取得。ケミカルバイオロジーを専攻し研究に携わる一方、米国のNPOにて開発途上国への医療テクノロジー導入も支援。2013年7月にバイエル薬品に入社。MR、全社プロジェクトのPMO、マーケティングと経営企画のマネジャーに従事。2019年1月 同社を退職後、Craif株式会社に参画。

どんなに良い技術であっても、人に届けることは難しい

私が薬学部に進んだ理由は、理系のなかでもできることの範囲が広い分野だったから。研究室は自分の裁量で研究をして成果を出す、という環境で、その考え方が私にとてもフィットしていました。自分の専門分野で成果を出せば、世界でトップレベルになれるというわかりやすい環境下でどう振る舞うのか、何をしたらいいのか、と考える癖がつき、それがいまにも大きく影響しています。

博士号を取得した後、ザンビアやインド、ナイジェリアなどの開発途上国で、梅毒の血液検査を導入するための活動にも参加しました。先天性の梅毒は、死産や新生児の死因の最も大きな要因のひとつですが、妊娠中の母親がわずか1ドルのペニシリンを打つだけで完治します。しかし、検査率がとても低いのです。そこで、広く普及しているHIV検査と組み合わせ、一回の血液検査で梅毒も同時にわかるキットを普及させるプロジェクトに従事したのですが、さまざまな障壁が浮き彫りとなり、実際はかなり困難でした。

そのときに「どんなに良いアイデアやプロダクトでも、それが実現して人の役に立てるようになるまでには高いハードルがあり、研究して技術だけを磨いても不十分だ」と身をもって感じたのです。必要な人に必要なものを届けることには価値があるけれど、それが容易にできないこともある。技術だけでなく事業やマーケティングの視点などの総合力が大事で、それを体現できるようになりたいと、このときに実感したのです。

Craifでのキャリアは、どこでも通用する大きな力になる

その後は製薬会社で営業(MR)やマーケティング業務に5年半従事した後、Craifに参画しました。代表の小野瀬からの熱い誘いを受けたという理由もありますが、非常に面白い技術を有しており、自分の経験を活かして社会にインパクトのある仕事ができると思ったからです。

Craifは、工学系研究科発のスタートアップ。バイオだけでなくデバイスの製作など、独自の技術力がある会社です。新しい検査を開発するため、デバイス、バイオ、解析、臨床と、各分野のエキスパートで構成されており、専門性の高いメンバーが多く活躍しています。エッジの効いた技術を使って、検査の発展やがんの早期発見に寄与できる、とてもエキサイティングな会社です。

企業での研究はアカデミアと違い、論文や学会発表で実績を作る機会がないというイメージが強いですが、CraifでのR&Dは3P(Product、Patent、Publication)に結びつけてはじめて成果となります。つまり、R&Dメンバー一人ひとりの実績となる仕組みなのです。研究も、イシューツリーといった問題解決の手法を日常的に使用するなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)による徹底した仕組み化を通じて極めて生産性の高い進め方をしています。ここでの経験があれば、どこに行っても通用するキャリアが得られるはずです。

新たな検査を実用化するため、前進あるのみ

正しくゴールを設定して、ちゃんと筋道を立ててとにかく前に進むことが何よりも大切。これはCraifに入社して身をもって実感できたことのひとつで、スタートアップでのR&Dで最も重要なことだと考えています。

尿を使ったリキッドバイオプシーは、がん検査が楽に受けられるという意味でも実現すれば社会的意義は大きいでしょう。やはり病院に行ってたくさんの検査を受けることが、心理的にも身体的にも負担になっている人が多いと思います。そのハードルを超える可能性のある技術なのです。

しかし、まったく新しい概念なので、すんなりと浸透するとは限りません。おそらく、様々な困難が出てくるでしょう。だから「市場に受け入れられるだろうか」と心配する前に、自ら仕組みづくりをしたいと考えています。自身の研究成果を挙げることがゴールではなく、実用化して、社会の役に立ってはじめてゴールなのです。この点を日々意識しながら、R&Dを進めています。これも、スタートアップならではの醍醐味です。

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